入社すぐに訪れたチャンス、
基幹システム統合プロジェクト
グループIT部近藤 裕貴
入社すぐに訪れたチャンス、
基幹システム統合プロジェクト
グループIT部
近藤 裕貴
「プロジェクトチームの中心として、期待しているよ。」
上司から責任のある大役を任された。それは、喜びよりも驚きでしかなかった。
グループIT部で社内SE(システムエンジニア)として勤務する近藤裕貴は、2021年に中途入社した。業務は主に、基幹システムの生産領域および工場での製造に関連する周辺システムを担当している。近藤は学生時分よりシステムやプログラミングに関心があり、その技術を活かせたらという思いがおぼろげにあった。大学は情報系の学科に進み、卒業後にはシステム開発会社に就職。前職では通信キャリア向けのシステム導入、保守や社内の最新技術を用いた新規ビジネスの創出などを担当した。
「ITベンダーに5年間勤め、転職して3年になりますが、社内SEは業務の幅が広いと思います。前職では特定のシステムだけを扱う業務でしたが、当社では本当にさまざまなことに携わる。できることが増えると同時に対応速度も上がり、成長を実感しています。」
近藤は、自社内の課題解決を実践する環境で働きたいという思いから社内SEとして当社を選んだ。利用者に最も近いところで、要望や課題に耳を傾けながらシステムを構築する。その成果や評価が、利用者から直接フィードバックされるといった立ち位置での仕事がしたかった。
「社内SEの醍醐味だと思います。前職の通信キャリア業界と製薬業界では完全な異業種で、システムの特徴が全くちがいます。これまでのノウハウは一部、活かすことはできても、すぐに対応はできません。一から勉強すべき点は際限なく、入社1年目は苦しみました。」

その1年目に、近藤はあるプロジェクトの先導役に抜擢された。福井県あわら市にあるグループ会社「トラストファーマテック」で使用する基幹システムを、サワイグループのシステムに統合するという事業計画だ。医薬品の供給不足が叫ばれる昨今、当社はグループ全体の目標として2030年までに生産能力を年間250億錠以上にすることを掲げている。その取り組みの一環に、福井県の旧製薬会社を譲り受け、グループ全体の薬の生産量を高めた。
「企業同士のシステム統合のような大きなプロジェクトは、これまで未経験でした。基幹システムは、会計や購買、製造、販売管理などに領域が分かれ、入社後に私が担当したのは製造だった。しかし、企業統合という大プロジェクトになるとすべての領域が対象になる。システムの詳細は、入社してまもない私にはわかりませんでした。だからといって、ほかの領域の担当者も巻き込まなければなりません。顔を合わせたこともない人たちの中で、プロジェクトを推進する。厳しい仕事でした。」
生産系システムの統合と一口に言っても、異なるシステムで稼働していた工場を加えるのは容易ではない。プロジェクトの取り組みとして、まずトラストファーマテック用の新しい基幹システムをサーバ内にまるごと構築し、当社のものと連携させた。その上で、工場側の管理システムの改修やインターフェースの整備を行い、工場と基幹システムを接続してグループの生産システムに迎え入れた。
難易度の高い仕事に四苦八苦する近藤に手を差しのべてくれたのが、上司でありプロジェクトのメンバーだった。そうした仲間の支えも手伝い、手さぐりながらプロジェクトを遂行する。その結果、2021、2022年の薬の生産能力が年間155億錠だったものが、プロジェクトを終了した2023年には30億錠増の185億錠にまで及び、めざましい成果を上げた。

「当社仕様のシステムに一新されたことで、トラストファーマテックの社員は使い勝手がわからない状況でした。だから、システム稼働前に現地へ足を運び、1か月ほどトラストファーマテックの方々とつきっきりで運用テストをくり返しました。その甲斐あって、最終的には一人ひとりが操作できるまでになりました。」
近藤は懐かしそうに、当時を振り返る。実際にシステムを導入し、トラストファーマテックの工場で製造した薬をはじめて出荷した際には、責任を果たした達成感に胸をなでおろしたという。「ああ、終わったな。やりきったな。そして、やってよかったな」。このプロジェクトを通じて、メンバーやトラストファーマテックの社員と何度も意思疎通を図り、なんでも言い合える仲になった。それが、社内SEとして最も重要なのだという。
近藤は現在、LIMS導入プロジェクトに参加している。LIMS(品質管理システム)とは、品質検査についての情報を一元管理し、作業効率と品質の向上を目的にしたシステムだ。そのLIMSを、まだ導入されていない工場に実装するプロジェクトが進んでいる。
「各工場の異なる要望をヒアリングし、要件定義した上で実際に必要なシステムを取捨選択する。そのコントロールが一筋縄ではなく、難しいところです。」
薬の品質を保つために、国によって厳しく定められた試験が製造の各段階で行われている。LIMSを導入すれば、システムがこれまで手作業で行なっていたサンプル管理や試験結果の記録などをすべて代行する。それにより、人為的なミスの防止につながるというのだ。
近藤の休日はもっぱら観劇で、息を抜いているそうだ。演者同士で意思疎通を図る演劇は、観衆の拍手とともにひとつの作品に仕上がる。「ユーザーファースト」の信念に基づいて、近藤は利用者の直接的な反応を求めて社内SEを志した。そんな近藤にとって、利用者からの感謝はこれ以上ない賛辞にほかならない。

※この記事は、2024年6月に取材した内容をもとに作成しています。