社外取締役座談会
- 社外取締役
- 三津家 正之
- 社外取締役
- 東堂 なをみ
- 社外取締役
- 小原 正敏
持続的な企業価値向上に向け
専門性を活かした監視・監督機能を
果たしていきます
当社では、3名の社外取締役が、それぞれの専門性を活かしながら社外の視点で経営を監視・監督する役割を担っています。2023年度は、米国子会社Upsher-Smithの株式譲渡や、九州工場で製造するテプレノンカプセルの不適切試験の判明など、厳しい判断が求められる案件が複数ありました。また、2024年6月に発表した新しい中期経営計画についても、活発に議論を進めてきました。今回の座談会では、取締役会がこうした議題をどのように取り扱ってきたのか、社外取締役がそれぞれの専門的知見に基づき、振り返りました。
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- 社外取締役三津家 正之
- 2014年から6年間、田辺三菱製薬株式会社代表取締役社長を務め、製薬企業の経営課題に明るい。2023年より当社取締役。
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- 社外取締役東堂 なをみ
- 医師。日本医師会認定産業医。2015年より沢井製薬取締役を務め、2021年4月より当社取締役。
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- 社外取締役小原 正敏
- 弁護士。きっかわ法律事務所パートナー。米国ニューヨーク州弁護士資格を持つ。2019年より沢井製薬取締役を務め、2021年4月より当社取締役。
米国事業からの撤退についての議論や
撤退についての考えをお聞かせください。
- 小原 :
- ジェネリック医薬品の国内シェアがほぼ8割に達するなかで、当時、新たなマーケットを模索し米国に進出を決定した経営判断は間違っていなかったと私も思います。ただ、実際に事業を始めてみると、DDでは想定しえなかったインドメーカーの進出による価格競争が激しくなり、マーケットにおけるポジションが厳しく、その改善が困難であることが明らかになってきました。そのようななかで、損失の拡大を回避するため撤退を決断したことは、合理的であったと考えます。
撤退には共同出資者の住友商事(株)の承諾・合意も得なければならない難しさがありましたが、撤退方針が決まった後は、慎重かつできる限り損失が少なくなるような努力のプロセスを報告していただいており、その点は評価しています。 - 三津家 :
- 米国事業と国内事業、双方にとって、それぞれの事業が拡大、発展するために必要な決断だったと思います。ホールディングス内で、国内のジェネリック医薬品事業と米国事業は、扱っている商品も市場ニーズも違い、互いにシナジーを生み出しにくい事業でした。それぞれの事業が今後、中長期的にどんな形ならば一番健全に発展できるかの視点で、米国事業の立場から見ると、沢井製薬と協調していくより、米国のジェネリック医薬品事業への投資に積極的な台湾のBora社とのアライアンスのほうが発展の可能性が明らかに高いと判断しました。
一方、国内では、それなりの規模感のある会社が、しっかりした品質のジェネリック医薬品を安売りではなく、アフォーダブル(手頃で良心的)な価格で国民に提供していくことが非常に重要です。国内事業の立場からも、事業の収益を国内の再投資に集中して回すという判断が必要な時期に入っていたと考えています。 - 東堂 :
- 結果的に読みが甘かったのは確かですが、果敢にチャレンジした事実と経験は残ったわけです。取締役会でも「この経験から何かを掴みとってほしい」と発言しました。
テプレノンの不適切試験とその再発防止策
については、どんな発言をされましたか?
- 三津家 :
- 生産部門や品質管理部門が部門内で管理している、品質の信頼性向上に関わる主要評価項目がいくつかありますが、私はこれを全社の目標として格上げしてほしい、できれば次の中期計画に入れてほしいと、取締役会で発言しました。非財務指標の中の定量的な目標として入れ、会社全体で目標を追い求め、その結果をユーザーや投資家に数字で言えるようにしてほしいと、要望しました。
もうひとつ、今回の件は一報という形で社外役員に報告されていましたが、今後の事例については、報告すべき案件と含めるべき内容につき、基準を明確化していただけるよう求めました。また、様々なトラブルが起きたときに影響をミチゲーション(最小化)するための方策についても、再発防止策のなかで議論が進められています。 - 小原 :
- おっしゃるとおりです。ここでは、こうした事象の発生を防止する体制をいかに整え、それを着実に運用しているかという問題と、我々社外取締役がそれらの情報を適時に確実に把握できる体制がどうなっているかという問題のふたつがあります。
まず、ひとつめの問題について。私は法律家なので、様々なトラブルや不祥事事例への対処について相談を受ける機会があります。それらの経験からは、そうした事象の発生を防止するためには、規則を詳細にしたり、明確化したりすることが大切で、この点は、沢井製薬でも現場レベルも含め、必要な手は打っていただいていると思っています。しかし、それだけでは不十分で、企業風土や働いている人の意識を改革していく必要があると考えます。
ふたつめの問題については今回、社外役員は判明後早いタイミングで問題発生の一報を受けましたが、原因究明と詳細な結果が判明し、取締役会に報告されるまでに時間を要したことに課題が残りました。今回の事象を受けて、取締役会でも真摯に議論し、然るべきプロセスにより、適時に取締役会への報告がなされる体制の整備・構築を求めました。これにより、この課題について是正されるものと思っています。 - 東堂 :
- 私も起きたことをまず取締役会に報告すべきだったのではないかと申し上げました。何の言い訳もできない問題です。心して再発防止に取り組み、築き上げてきた品質への取り組みをいっそう強固にしていかなければいけません。企業統治のなかでコンプライアンスを含む経営の監督は社外取締役の枢要な役割のひとつですので、その職責を果たさなければならないという思いを新たにしています。
- 三津家 :
- 今のジェネリック医薬品は、国内全体で供給不足の問題が生じていて、いまだ供給制限品目が多い状況が続いています。したがって生産現場では、生産量に対する圧力が非常に強くなっています。再発防止には、会社が求めている「コストを下げつつ、生産量を拡大させる」ということと「品質の担保」の両立について、現場が腹落ちすることがとても大事だと思っています。
その腹落ち感のためには、3つのことが大切であると申し上げました。ひとつは、小原取締役がおっしゃったような組織風土の改革。そして、すでに各本部が把握している製品の信頼性向上に関わる主要評価項目の数値を、会社としての目標にすること。最後に、工場の設備、データの自動記録などのシステム、そして工場で働く人の増員といった、モノとシステムと人への投資です。
人については、今回の新中計で、工場の品質管理部門を中心に、130名程度の増員計画が発表されています。しかし、繰り返しになりますが、やはり一番大事なのは、生産現場の最前線にいる方が「会社が一丸となって品質を最優先にしている」ということに納得して腹落ちすることだと思います。それがなくては、また同じ問題が生じてしまうという危機感を持っています。
中期計画の策定にいたる検討経過や
議論について教えてください。
- 東堂 :
- 新中計の議論で私は、社員やサワイを応援したいという気持ちを持ってくれているすべてのステークホルダーの人々の心を掴むことに注力してほしいと申し上げてきました。私は社外取締役に就任して以来、明確かつ魅力あるビジョンを示すべきであるということを繰り返し申してきました。もちろん、利益を上げないと社員に給料を払えませんし、株主に配当も払えません。しかし、企業の持続性を担保するためには、実はビジョンに核心部分があるのではないかと思うのです。
- 小原 :
- 数字の面については、実現可能性の裏付けをシビアに見ていく必要があると思っています。ですから、新中計の議論では、期待する将来像としての計画ではなくて、現実の基礎づけられた数字に基づいて、当社が着実に実施していくべきことをきちんと落とし込んでいかなければいけないという立場で、意見を申し上げてきました。中計に限らず、最近の取締役会の議論では、有効に資本が活用されているのかという観点からの検討が、かなり踏み込んでされるようになってきており、その点は心強く感じています。
- 三津家 :
- 私は非財務指標、言い換えますと、ESGに関わる部分が非常に大事だと思っています。特にガバナンスやサステナビリティの問題は、当社の主力事業であるジェネリック医薬品事業の継続性や持続的な収益拡大に直結しています。しっかりとしたガバナンス体制を築き、安定してものをつくり、品質を担保し、安全性情報を集め、適正な値段で売る。また、数多くの商品を欠品なく供給していく。当社の場合、こうした取り組みが中期的な収益に直結しています。一見、財務には直結しない指標でも、目標を定め、きっちりとステップアップしていくことが、最後には収益につながると考えています。
国も品質や安定供給などにきちんと取り組んでいる企業を評価し、薬価の配慮も行うことを言っています。つまり、最終的にESGへの取り組みが中期的な収益の拡大につながっていくことを、国も後押ししてくれているのです。社会に貢献していくことが企業としての成長につながるというサイクルを訴えやすい事業なのですから、それを積極的に社会に発信していくことが大事だと思います。 - 東堂 :
- 企業の存在意義と利益が合致するということですね。
- 三津家 :
- たとえば、中計の説明会の後に、ESGの説明会をやってもいいのではないでしょうか。そうした発信をすることが世の中の方々に評価されて、評価が毎年積み上がっていけば、社員の納得感や自負、会社に対する従業員エンゲージメントにつながっていくのではないかと思います。
- 東堂 :
- 自負って必要ですね。自負は生きていく糧とも言えるものですから。
当社が目指すべきガバナンス強化や人財戦略
の方向性について、どうお考えでしょうか?
- 三津家 :
- ガバナンス面で優先すべきは取締役会の機能強化だと考えています。ガバナンス・コード対応は、かなり前から一生懸命にやってきていて、毎年少しずつ改善が図られていますね。
取締役会の実効性評価も、今回から外部の機関を使いながら評価を進める体制が整いました。他社と比較できるデータもかなり出てくると思います。こうしたデータを活用しながら、どの項目をどう改善していくといったPDCAを回し、それを外に向けて発信していければ、当社のガバナンス強化のありようも、ご理解いただきやすくなるのではないでしょうか。
それからもうひとつ強調しておきたいのは、当社の事業では人的資本が非常に大事だということです。残念ながら現在、特に生産現場の離職率が高い状態が続いています。現場の方の話を聞いても、忙しくて、しんどい状況が伺えます。この状況を改善しつつ、技量も上げていくには、やはり長く勤めていただくこと、その環境を整えることが大事になってくると思います。 - 小原 :
- 人の問題では多様な人材を生かすことが非常に重要です。これまでも各企業から実績のある人材をキャリア採用で迎えていますが、そういう外部からの方たちだけではなくて、内部から人材を育てていくような人事政策が大切になってくると思います。
- 東堂 :
- 私も女性に限らず全ての社員を、社内であせることなくじっくりと育成していかないといけないと常々申しております。そして、社内から女性の取締役や執行役員を出すことが重要な課題のひとつだと考えております。
- 三津家 :
- 当社はキャリア採用には非常に積極的で、マネジメント層にも大勢、キャリア採用を経て入社した方がいます。ですから、ノウハウや経験のダイバーシティは、すでにこの会社には備わっているのではないかと思います。それを当社に長年勤めていらっしゃる方とマッチさせ、力を伸ばしながらいかに最大化させていくか。今回の中計で示された経営戦略と人材戦略をどうマッチさせていくのか。執行側の役員には、こうした点について、積極的にメッセージを出していってほしいと思います。
- 小原 :
- 幸いなことに、取締役会では、社外取締役の専門分野がみな違います。医療に詳しい東堂取締役、事業、特に製薬企業に詳しい三津家取締役がいらっしゃって、弁護士の私は法律問題や社外の法的な動向や事例もよく知っていますので、ガバナンス・コンプライアンスの観点から意見を申し上げるようにしています。社内だけの議論・視点だけでなく、それぞれの専門分野を活かして広く、多様な視点からの意見を取締役会で申し上げることが、会社にとって有益になればいいと考えています。