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トップメッセージ

代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO)
澤井 光郎

新体制の狙い

スピーディーな意思決定ができる新体制で、
ジェネリック医薬品事業を取り巻く厳しい環境に対応していきます

当社グループは2021年4月にサワイグループホールディングス株式会社(以下「当社」)を設立して持株会社体制に移行し、代表取締役3名が役割分担して経営にあたってきました。私が当社グループ全体の最高経営責任者を務め、澤井健造副会長兼沢井製薬社長が中核のジェネリック医薬品事業を、末吉一彦社長が当社グループ全体の管理部門の統括と海外及び新規事業を担当し、それぞれ責任を果たしてきました。

その成果や事業を取り巻く環境の変化を鑑み、2023年6月に、当社の会長と社長を私が兼務することで経営を一本化し、澤井健造が当社の役員とともに沢井製薬の社長を退任、また、末吉も当社の社長を退任して副会長/特命担当・ESG担当とする役員人事を実施しました。

持株会社化後は、リスクマネジメント、コンプライアンス、情報セキュリティ、サステナビリティについてグループ内のばらつきをなくし、ガバナンスを効かせていく必要がありましたが、この2年間でしっかり定着してきました。また、米国事業も研究開発体制の見直しを敢行でき、黒字に転換することができました。そこで、両領域を担っていた末吉は勇退し、課題として残っているESG(環境・社会・ガバナンス)を担うことになりました。

一方、中核ビジネスのジェネリック医薬品事業についても、澤井健造社長のもと、各本部長が自ら考え行動し、自分たちの責任・使命を果たせるようになり、他社が苦しいなかでも一定の利益を出せる体制ができてきました。しかしながら、次の項目で詳しく述べますように、毎年の薬価改定をはじめとする業界を取り巻く制度・環境を変えていかなければ、個々の企業の努力だけでは今後の成長・発展の展望を描くことができない状況に直面しています。

この状況に対し、澤井健造は「自らの経験や制度に関する知識などを活かして、業界全体の事業継続のための活動をしたい」という強い決意と覚悟のもと、経営の一線からいったん退き、業界活動に専念することを決断しました。

澤井健造の後任には、沢井製薬で生産本部長を務めてきた木村元彦が就き、ジェネリック医薬品事業を指揮していきます。新薬メーカーで培ってきた経験・知見をもとに、品質やGMP※1レベルの引き上げに貢献してきた功績は大きく、沢井製薬に求められている品質と安定供給へのさらなる貢献を期待しています。また、沢井製薬の研究開発責任者を務めてきた横田祥士が、当社の取締役に就任しました。新規事業展開を含む今後の研究開発に、全体を管理監督する立場で責務を果たしてもらいます。

あわせて、東証のコーポレートガバナンス・コードにおいて、他社での経営経験を有する社外取締役を置くことがプライム市場上場会社に求められています。この要請に応えるため、田辺三菱製薬の社長を6年務められた三津家正之氏に社外取締役に就任いただき、当社グループのガバナンス強化を担っていただくことにしました。海外企業の経営にも知見があり、さらに薬機法やGMPといった当社グループの事業に関わる法令にも精通されている方に社外取締役になっていただいた意義は大きいと考えています。

これらの人事の結果、当社の経営は代表取締役1名が担い、スピーディーな意思決定ができる体制へと移行しました。また、社内外の取締役が各3名と社外比率50%が達成でき、ガバナンス体制もこれまで以上に強化できました。

  1. ※1Good Manufacturing Practiceの略。医薬品の製造および品質管理に関する国際基準。

国内ジェネリック医薬品業界の事業環境

高品質なジェネリック医薬品を安定的に供給し、国の医療費節減に
貢献するために、古い仕組みを変えていく時期に来ていると考えています

中核のジェネリック医薬品事業について、沢井製薬は「なによりも患者さんのために」という企業理念のもと、誠実に患者さんを想い、開発・提供に取り組んできました。しかし今、高品質なジェネリック医薬品を安定的に供給するという企業使命が果たせなくなるような厳しい状況を迎えています。

これまで国の使用促進策のもとジェネリック医薬品の普及が進み、我々のビジネスも成長してきました。一方で、過当競争のなか、医薬品企業に必要な品質最優先の考えや体制が不十分な一部の企業による品質問題をきっかけに、2022年にはジェネリック医薬品の約4割が出荷停止・限定出荷となるなど、供給不足を引き起こしました。さらに近年、AG(オーソライズドジェネリック)がシェアを伸ばすなか、残りの市場をジェネリック医薬品専業メーカーで奪い合う状況にもなっています。

多品種少量生産のジェネリック医薬品の原価率は約70%と高く、一般的な新薬の原価率の2倍以上になります。当社グループ製品の約60%の薬価は10円以下であり、毎年の薬価改定による価格の引き下げで多くの品目で原価割れが起き、品目数の3割が赤字という状況です。しかし、たとえ赤字品目であっても、国民の生命・健康に関わる医薬品の性格上、我々は製造・供給を止めることができません。どこよりも経営改革や生産の効率化などに取り組んだにもかかわらず、エネルギー価格の高騰の影響も受け、2022 年度の国内事業は減益となりました。

さらに2024 年4月には、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬が「トリプル改定」されます。物価や人件費の高騰を背景に、各報酬の引き上げが求められますが、社会保障費の枠は大きく増やせるわけではありません。2025 年にはすべての団塊の世代が75 歳以上を迎え、社会保障費は増える一方です。 厚生労働省は医薬品の迅速・安定供給に向けた有識者検討会を立ち上げて、業界の事業構造にまで踏み込んだ議論が行われています。

現行の薬価制度では、ジェネリック医薬品の薬価は3価格帯の加重平均値で決まる仕組み※2です。しかし、この仕組みでは、各企業の努力が成果に反映されません。沢井製薬では、1品目1品目、患者さんの飲みやすさや医療関係者の方の使いやすさを追求した製剤開発をしています。品質の良いジェネリック医薬品を安定的に供給している企業の努力が報われるよう、銘柄別の薬価に戻すべきだというのが当社グループの考えです。

沢井製薬では原価高騰を受け、一部の製品の仕切り価格※3を、2022 年にやむを得ず値上げしました。卸売業者さんから反発の声もいただいておりますが、このような状況になって初めて、当社グループの安定供給に対する強い意志が社会に伝わったことも事実です。ジェネリック医薬品のシェアは、すでに厚生労働省が目標としていた80%を超え、これまでに採られてきたGE促進策は一定の目的を達成しました。これからは医師の皆さまが絶対必要だという薬はしっかり薬価の手当てを行い、そうでない薬は止める方向に持っていくなど、古い仕組みを変えていく時期に来ていると考えています。

ジェネリック医薬品は年間1兆7,000億円の医療費節減に貢献し、その額は沢井製薬だけで約2,809億円に上ります。仮にそれを先発品に換えると、その分医療費が上がることになります。低薬価のジェネリック医薬品の薬価を適正な利益が見込める水準まで引き上げ、今後も安定的にジェネリック医薬品を供給できる体制にする方が、国民や国にとってメリットがあるはずです。このような業界の課題やジェネリック医薬品についての正しい情報を、厚生労働省はもちろん、医療関係団体、保険者、政治家や国民の皆さまにもしっかりと訴え、業界の構造を変えていくことができれば、その後、ジェネリック医薬品業界は必ず発展していくと確信しています。

  1. ※2既収載のジェネリック医薬品の薬価は、薬価改定時に、市場実勢価格の加重平均値をもとに「最高薬価の30% 未満」「最高薬価の30%~50%未満」「最高薬価の50% 以上」の原則3価格帯に集約されるルールで運用されている。
  2. ※3仕切り価格:メーカーから卸売業者への販売価格
企業別医療用医薬品販売錠数(国内)
企業別医療用医薬品販売錠数(国内)
沢井製薬の製品による医療費節減総額(国内)
沢井製薬の製品による医療費節減総額(国内)

業界全体の信頼回復に向けて

業界のリーディングカンパニーとして、
供給不足解消や信頼回復に率先して取り組んでいます

ジェネリック医薬品の生産は製造設備ごとに緻密な生産計画を立てているため、急な増産が難しい体制となっています。そのなかで、沢井製薬は、在庫を極限まで放出して出荷の努力をしてきましたが、全体の供給が不足するなかで、特に既存のお取引先にはご迷惑をおかけし、営業の現場では、時にお叱りを受けることもありました。

しかしながら、協力会社も含め社員一丸となって増産体制を強化した結果、前期実績を10%上回る166億錠を生産できました。在庫量もほぼ元通りの水準となり、2022年4月以降は、限定出荷を大幅に減らしています。しかし、供給不足は当社グループだけの問題ではありません。新薬企業も含めた業界団体で沢井製薬は先頭に立ち、厚生労働省と連携し、全医薬品の供給状況を一覧で公表する取り組みなどを進めています。

ジェネリック医薬品の品質問題に関しては、日本ジェネリック製薬協会でジェネリック医薬品に対する信頼の回復に向けた取り組みを進めており、各社が保有するすべての製造販売承認書が製造実態に反映されているかの総点検を進めています※4。道半ばではありますが、協会としてすべての情報を出し尽くし、業界全体の信頼の回復のために取り組んでいます。点検の方法については第三者監査の段階に入り、沢井製薬は他社に先駆けて監査を受け入れました。当社グループだけが「品質は大丈夫です」というのではなく、業界全体が信頼を回復していかなければ、安心してジェネリック医薬品を使っていただくことはできません。業界のリーディングカンパニーとして、使命感を持って信頼性回復に取り組んでいきたいと考えています。

  1. ※4日本ジェネリック製薬協会「ジェネリック医薬品に対する信頼の回復に向けた当協会の取組みについて」参照
    https://www.jga.gr.jp/effort.html

米国事業の再構築

研究体制の見直しによって、黒字化を達成。
低コストで開発した製品上市にも期待しています

米国事業戦略については、Upsher-Smithの開発品目の“目利き力”を評価して買収した経緯がありますが、経営が少し厳しくなってきたことから、研究開発体制を見直しました。これが、コスト構造の見直しにつながり、営業利益が改善されました。コスト構造の見直しについては、日本主導で2022年に就任した会長兼CEOの中岡卓が方針を示し、実務の指示は米国人であるリッチ・フィッシャー社長兼COOが担うという役割分担をしています。

ミネソタ州に竣工した新工場では2023年1月から生産を開始し、工場の統合と委託品の内製化によって2024 年度以降、年間400 万ドルから600 万ドルのコストダウンを見込んでいます。さらに今後は、製造受託ビジネスに展開することで、工場の稼働率を上げるとともに新たな収益源とすることも検討しています。

製品については、新製品の上市だけでなく、今後は、沢井製薬のパラグラフⅣの品目も加わってきます。新体制のもと低コストで開発した製品も上市されてくることから、スペシャリティ医薬品企業として持続的で長期にわたる成長を実現するというビジョンの達成は可能であると考えています。

新規事業の収益化

薬価改定の影響を受けづらい領域で、安定収益につなげていきます

当社グループでは、今後も持続的成長を続けるため、国が目指す健康長寿社会の実現に向けてジェネリック医薬品以外の成長機会にも積極的に投資し、既存事業で培った強みを活かせる新規事業に4つの分野で挑戦しています。

まず「デジタル・医療機器」分野では、片頭痛の急性期治療に用いる非侵襲型のニューロモデュレーション機器「SWD001」について、2022年12月に承認申請を行いました。また、NASH※5領域でも、2022 年8月に、Cure App 社と治療用アプリの共同開発及び販売のライセンス契約をするなど、進展がありました。NASHは確立された薬物療法がなく、食事療法が中心ですが、デジタルを使って食事制限ができれば有望な治療法になると期待しています。いずれの製品・サービスも、医師の方々から着眼点を高く評価されています。

「健康食品」については、未病及び予防分野に焦点を当て、製品ラインナップの拡充を検討中です。沢井製薬ならではのときめきが感じられる、他にはない健康食品を開発し、事業化させていきたいと考えています。

一方、世界に7,000ほどある希少疾患を治療する「オーファンドラッグ」は、1品目だけではビジネスになりませんので、この分野は長期的な視点でパイプライン拡充を検討しています。新規事業のうち「健康食品」は、中核のジェネリック医薬品事業と違って需要や付加価値に合わせて売値を決めることができます。また、「デジタル・医療機器」は、薬価制度の影響を受けづらく、企業努力が利益に反映される領域として期待しています。

  1. ※5NASH:非アルコール性脂肪肝炎
医療機器事業
SWD001(非侵襲型ニューロモデュレーション機器)
  • 片頭痛急性期治療:2022年12月に製造販売承認申請済、発売に向け準備中
  • うつ病:米国での治験終了後、申請検討予定
SWD002(NASHを適応症とする治療用アプリ)
  • 株式会社CureAppとの共同開発及び販売ライセンス契約を締結した治療用アプリについて、フェーズ3試験を準備中。2023年度開始予定
デジタル事業
SaluDi( PHR※6管理アプリ)
  • 兵庫県養父市「養父市デジタルヘルシーエイジング事業」へ採用、2023年度より運用開始
  • 長崎県「あじさいネット」のオフィシャルPHRアプリへ採用、EHR※7/PHR連携に取り組む
健康食品事業
トリプル生活習慣(機能性表示食品)
  • 2022年11月にテストマーケティングが終了
  • テストマーケティングの結果をもとに事業性を評価、今期より事業開始
新薬事業
(オーファン疾患)
希少疾患用医薬品(オーファンドラッグ)
  • 社内の評価体制を強化し、継続してパイプライン拡充を検討中
  1. ※6PHR:パーソナルヘルスレコード
  2. ※7EHR:エレクトロニックヘルスレコード

中長期の成長戦略

Sawai Group Vision 2030の目標を着実に達成し、
株主の皆さまの期待に応えます

2022年度、当社グループの売上収益は初めて2,000 億円を突破しました。Sawai Group Vision 2030の数値目標達成に向けた今後の成長戦略については、グループ戦略会議でしっかりと議論をしています。成長のための投資については、個別の小さい投資についても、投資に関する委員会で検討してグループ戦略会議に上げることで、ガバナンスを効かせ、コントロールしています。

特に今後の投資分野として重視しているのは、研究開発です。ジェネリック医薬品事業はもちろん、新規事業も研究開発が重要になってきますので、しっかりと議論し、将来、収益として“刈り取り”ができるようなものに投資をしていきたいと考えています。投資の原資となる資金は、これまで設備投資等を含めて営業キャッシュ・フローのなかでコントロールしてきましたが、大きな資金も使うようになってきましたので、今後は、銀行からの借入れを中心に調達していく方針です。ROEも意識し、借入れや社債の発行でレバレッジを効かせていくことも検討していきます。

昨今、投資家の皆さまとの対話を通じて感じているのは、「日本の医療インフラであるジェネリック医薬品を支えるのはサワイさんしかない」という当社グループに対する期待の大きさです。毎年の薬価改定によって、率先して設備投資をしても成果に反映されにくいことを良くご存じで、「制度を変えなければ、インフラとして成り立たなくなる」という考えに賛同いただいていると感じています。

ジェネリック医薬品事業の持続性が保たれなくなれば、国民の医療費負担は増すばかりです。また、国内メーカーの経営が成り立たず海外メーカーに依存するようになると、海外にお金が流れていきます。国民の健康と安全を守る健康安全保障上も、医薬品は国産のジェネリック医薬品であるべきだという期待に、当社グループは応えていく必要があります。

当社グループを応援してくださっている株主の皆さまへの還元として、配当性向30%を目処とする安定配当を基本とし、この方針が今後もしっかり達成・継続できるよう経営をしていきたいと考えています。

Sawai Group Vision 2030 目標及び前提数値
2022年度
実績
2030年度
日本事業
売上収益
1,637億円2,600億円
新規事業
売上収益
800億円
米国事業
売上収益
366億円600億円
売上収益
合計
2,003億円4,000億円
ROE6.5%10%以上

サワイグループの存在意義と企業理念

「なによりも健やかな暮らしのために」「なによりも患者さんのために」
企業理念を具現化していく不断の努力を続け、期待に応えてまいります

当社グループの企業理念「なによりも健やかな暮らしのために」には、ジェネリック医薬品事業を中核に、社会とともに持続的に発展するヘルスケア企業グループとして、ひとりでも多くの人々の健康に貢献していきたいという願いを込めています。この理念・ビジョンが事業活動のなかで徹底されていることが、揺るぎない信頼につながると考えています。そして、当社グループの一番大きな責任であり存在意義は、中核ビジネスであるジェネリック医薬品事業において、品質の良いジェネリック医薬品を必要なときに必要な量だけ供給できるような状況をつくり上げることです。

「なによりも健やかな暮らしのために」、また沢井製薬の「なによりも患者さんのために」という企業理念に魅了されて入社してくる多くの社員が、グループの企業文化を形づくっています。新たに加わった皆さんにも、理念をしっかりと落とし込み、これが当社グループの強みであると明言できるようにしていく。これは永遠のテーマです。今後も、企業理念の具現化に全社員の力を結集し、不断の努力を重ねながら、すべてのステークホルダーの皆さまの期待に応えるべく挑戦してまいります。

代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO)
澤井 光郎

サワイグループホールディングス 統合報告書2023

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