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トップメッセージ

代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO)
澤井 光郎

不適切試験の総括と再発防止策

自らの責任として、再発防止に取り組み、信頼回復に努めてまいります

まず、2023年4月に判明しました当社主要子会社の沢井製薬における不適切試験について、心からお詫び申し上げます。本事案は、沢井製薬九州工場で、テプレノンカプセル50mg「サワイ」の安定性モニタリング溶出試験において、不適切試験が実施されていたことが判明したものです。「高品質な医薬品を安定供給することが使命である」と訴え、お客様からも「サワイといえば高品質」という評価をいただいていたにもかかわらず、誠に遺憾ながら今回のような不正を起こしてしまいました。その結果、サワイの医薬品を信頼してお使いいただいていた医療関係者の方々、患者さんをはじめ、多くの関係者の皆さまに大変なご迷惑をおかけしてしまいました。

本事案の判明後、沢井製薬では外部のGMP専門家及び弁護士を含む特別委員会に調査をお願いし、調査報告が届いた3日後、国からの業務改善命令を待たずして自ら説明責任を果たそうと、2023年10月23日に調査結果を発表しました。同委員会からの再発防止策の提言を受けて、現在、木村社長直轄の企業風土改革プロジェクトをはじめ、関連部門にて再発防止策を着実に実行しているところです。※1

しかしながら、このような事態を招いたすべての責任は、経営に携わってきた私にあります。沢井製薬の社長に就任した2008年以降、四半期ごとに全工場を回り、「なによりも患者さんのために」という企業理念に込めた高品質の医薬品づくりとはどういうものか、現場に伝えてきたつもりでした。しかしながら、人間はミスをするものだということを前提に、ミスがあっても探知し、不適切な業務が行われないような仕組みづくりを怠っていたことは、大きな責任です。

こうした経営責任を明確に示すため、2023年12月22日の国からの業務改善命令を受け、私を含めた沢井製薬の役員5名が役員報酬の一部を自主返納しました。今年からは、この「12月22日」を、不祥事を二度と発生させない決意の日としていく考えです。

今、最高経営責任者としての私の責任は、先に述べたような仕組みをつくることです。さらに、木村社長が実施しているタウンホールミーティングなどを通じた現場の人たちとの意見交換や内部通報システムの強化など、様々な施策を重層的に行い、再発防止を徹底することで、皆さまからの信頼回復に努めてまいります。

  1. ※1当社子会社における不適切試験に対する再発防止策
    ① 企業風土改革プロジェクト
    ② 既存上市品の製造面及び品質面での再評価とその対策実施
    ③ 沢井製薬生産本部における再発防止策の実施
    ④ 沢井製薬九州工場における再発防止策の実施
    ⑤ 沢井製薬信頼性保証本部における再発防止策の実施

    各取り組みの詳細、進捗状況は沢井製薬ホームページにて開示し、定期的に更新中(詳細は下記よりご確認ください)
    https://www.sawai.co.jp/important_news/detail/17

事業環境の変化と当社の取り組み

2023年度に断行した価格政策を徹底し、
ジェネリック医薬品を長期・安定的に供給できる体制を構築していきます

我々のジェネリック医薬品事業に大きな影響を与える、2024年度の薬価制度改革の内容が発表されました※2。ジェネリック医薬品の安定供給が確保できる企業を可視化し、それらの企業の医薬品を医療現場で選定しやすくする「企業評価」など、医薬品の安定供給の確保に向けた政策が盛り込まれたことは、事業にプラスの影響を与えるものとして評価しています。

この企業評価は、沢井製薬にとって有利なポイントがふたつあります。ひとつは、沢井製薬が生産能力増強に投資をしてきた結果、今後3年のうちに65億錠という揺るぎない生産余力を持つ見込みがあるということです。

もうひとつは、沢井製薬が、原価の上昇が著しい品目や不採算品目は、過度な値引きをせず、ほぼ薬価で購入いただく「価格政策」を、2023年度から実施したことです。2023年の薬価調査では、薬価と医薬品の実勢価格の差である全医薬品の平均乖離率は約6.0%でした。企業評価では、不採算品再算定を受けた品目については、ジェネリック医薬品も乖離率7.0%のなかで販売しなければ、良い評価を得られません。しかし、すでに価格政策で実績を持つ沢井製薬は、容易にこの範囲での販売が可能です。

とはいえ、薬価制度がある限り、厳しい事業環境であることに変わりはありません。他の製品、例えば、食品などでは、原価の上昇は販売価格に反映されるのが一般的です。しかし、医薬品は薬価で上限が決まっており、価格転嫁が難しい製品です。さらに、近年は毎年薬価が引き下げられてきました。この状況が変わらないのであれば、自分たちが生き残り、成長していくには、チャレンジをするしかない。そう考え、様々な関係者と交渉しながら、業界では前例のない価格政策に踏み切りました。

この動きに呼応するように、今回の薬価制度改革では、「急激な原材料費の高騰、安定供給問題に対応するため、企業から希望のあった品目を対象に特例的に不採算品再算定を適用する」という、価格の下支え制度の充実が盛り込まれました。これによって、ようやく不採算品目に利益が出るような状況になりました。

医薬品を安売りすることは、本当に業界や患者さんのためになるのでしょうか。原価の上昇分は適正に価格転嫁し、将来にわたって安定的に供給できる体制をつくることこそが重要であると、我々は考えています。

  1. ※2詳細は日本ジェネリック製薬協会のサイトを参照
    https://www.jga.gr.jp/jgapedia/deals/2403.html
企業別医療用医薬品販売錠数(国内)
企業別医療用医薬品販売錠数(国内)
サワイグループの製品による医療費節減額
サワイグループの製品による医療費節減額

事業ポートフォリオと資本政策

米国事業から撤退し、国内ジェネリック医薬品事業に
経営資源を集中させるとともに資本コストや株価を意識した経営へと転換

当社は、2024年1月開催の取締役会で、資本収益性をさらに向上させることで、これまで以上に株主の期待に応えられるような経営改善に取り組むため、事業ポートフォリオと資本政策について見直す決議をしました。

その基本方針のひとつとして決断したのが、米国事業からの撤退です。米国事業は、ライバル社やインド勢の参入で価格競争が激化して年々利益が低下し、収益性の回復も望めない状況に陥っていました。

研究開発費を投じ、新たなブランド薬によって売上改善を図る道もありました。しかし、資本政策の観点から、同じ資本を投じるならば、収益性の低い米国事業ではなく、相対的に収益性の高い日本事業への投資を優先させるという経営判断に至りました。供給不安が続く足元の国内ジェネリック医薬品市場に、今、経営資源を集中させれば、大きな利益につながる成長のチャンスだという判断です。

撤退の検討と並行して、資本政策の見直しについても検討しました。東証からも資本コストや株価を意識した経営への要請があり、その課題意識はずっと持っていました。これまでは、経営者側の視線であるP/L(損益計算書)を中心に業績評価をしてきましたが、今後は、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった、株主目線の指標や資本投下に対するリターンを意識した経営をしていきます。

長期ビジョンの実現に向けた
新中期経営計画

国内ジェネリック医薬品市場でのチャンス拡大を受け、数値目標を見直し供給不足解消に向けて生産能力増強や人的資本強化に取り組みます

当社は、長期ビジョン「Sawai Group Vision 2030」達成に向け、中期経営計画「START 2024」(2021〜2023年度)において、「国内ジェネリック医薬品事業のシェア拡大」「米国事業の拡大」「新規事業による新たな成長分野の開拓」の3つを掲げ、取り組みを進めてきました。

この間、米国事業からは撤退し、新規事業はまだ挑戦を開始したところですが、国内ジェネリック医薬品事業についてはシェアを1%増やし、売上収益を大きく伸ばすことができました。特に最終年には、ジェネリック医薬品の価格政策に挑み、大きな成果が得られたと考えています。数値的には、米国事業の撤退によりグループ全体で売上収益とコア営業利益が落ちましたが、EPS(1株当たり当期純利益)は281.80円から312.67円へと、ROEは5.8%から6.6%へと、厳しい環境のなかで改善することができました。

長期ビジョン達成に向けた今後の課題は、コンプライアンス・ガバナンス体制の構築など、環境変化に迅速に対応できる持続可能なビジネスモデルの確立です。さらに、米国事業からの撤退と、国内ジェネリック医薬品事業のビジネスチャンス拡大を受けて、2024年6月に「Sawai Group Vision 2030」の定量目標を見直しました。

ジェネリック医薬品事業は、ビジョン策定時の計画から上方修正し、2030年度までに3,000億円の売上収益を目指します。また、資本効率をより重視した経営への転換に伴い、ROICの目標値を新設し、ROEは13%以上、ROICは10%以上を目標値としました。これらの計画のもと、社会インフラとなったジェネリック医薬品の安定供給の中心的役割を果たすとともに、予防や診断領域を含めた製品やサービスの提供を通じて、社会課題解決に寄与していきます。

長期ビジョンの見直しとあわせて発表した新中期経営計画「Beyond 2027」の3年間は、その基盤を整える重要な期間と位置付けています。ジェネリック医薬品の供給不足は、今後数年は続くと予想されていますが、その間に沢井製薬では65億錠程度の増産体制が構築でき、供給不足を解消できる見込みです。これは当社グループ躍進の大きな原動力になってきます。

医薬品不足の早期解消という責任を果たすためにも、生産能力の拡充とコスト競争力の強化、資本効率の改善に注力し、ジェネリック医薬品企業間の連携・協力も推進していきます。そして何よりも、価値創造の源泉である人的資本の強化を最優先の課題とし、積極的に取り組んでいきます。

サステナビリティへの取り組み

ダイバーシティの推進、ガバナンス体制充実に加え、
気候変動への対応に、これまで以上に注力します

長期ビジョン及び新中計の達成に向けて、サステナビリティへの取り組みもまた重要な経営課題と認識しています。当社では、サワイを支えるのは「人」であるという考えのもと、長期ビジョンで掲げた「ダイバーシティの推進」を目指して、2023年10月に「ID&E推進室」※3を設置しました。この組織を中心に、性別を問わず、意欲ある人財の活躍を推進するための取り組みを積極的に推進しています。喫緊の課題は、10%未満にとどまる女性管理職の比率を20%以上に高めることです。そのためにも、在宅勤務をはじめとした、様々な仕組みづくりをスピーディに進めていきます。沢井製薬の原点は、約90年前に日本の女性薬剤師の草分けの一人が始めた薬局です。そういう意味でも、「女性に活躍してほしい」という想いを私自身持っています。

一方、ガバナンス体制は、非常に充実してきました。社外取締役の比率が5分の3にまで増え、特に製薬企業の経営経験がある方に入っていただいたおかげで、取締役会が活性化し、鋭い意見に多くの気付きを得ています。例えば、投資に対するリターンの追求では、その投資を選ぶ理由や投資を承認するにあたっての評価の仕方などについて、詳しい説明を求められます。不適切試験の再発防止策についても同様です。他方、女性取締役は1名にとどまっており、複数人に増やしていく必要があります。

加えて、気候変動の影響が深刻化するなか、今後は環境への取り組みを従来以上に強化していく考えです。気候変動は事業リスクとしても捉える必要があり、投資家や消費者の視線も厳しくなっています。生産能力増強とCO₂排出量削減の両立は難しい挑戦ですが、環境に配慮した生産と再生エネルギーの利用拡大を進め、CO₂削減に取り組んでいきます。

当社は、2024年4月に社債を国内公募形式のソーシャルボンドで発行しました。このことは、我々の事業そのものが、ジェネリック医薬品の供給不足という社会課題の解決、ひいてはSDGsや持続的社会の実現に貢献していることが認められた証だと認識しています。

  1. ※3インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ推進室
「Sawai Group Vision 2030」とサステナビリティ重要課題
「Sawai Group Vision 2030」とサステナビリティ重要課題

ステークホルダーへのメッセージ

企業理念の具現化に総力を結集し、期待に応えるべく挑戦を続けていきます

ジェネリック医薬品は当面、供給不足が続くだけでなく、高齢化によってその市場は拡大していくと予想しています。そのなかで、沢井製薬の持つ供給力への期待は大きく、国内のジェネリック医薬品ビジネスは今までにないチャンスを迎えています。我々は、この足元の成長機会を着実に獲得して一気に成長ステージを目指すとともに、ジェネリック医薬品のリーディングカンパニーとして、高品質・低価なジェネリック医薬品を長期的に安定供給できる社会インフラとしてのビジネスモデルを確立していきます。さらに、新しい事業領域にも挑戦を続け、健康寿命の延伸にも貢献していきます。

すべての土台となる信頼される企業基盤を確立し、グループの企業理念である「なによりも健やかな暮らしのために」を具現化するために、全社員の力を結集し、株主の皆さまをはじめ、すべてのステークホルダーの期待に応えるべく、不断の挑戦を続けてまいります。

代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO)
澤井 光郎

サワイグループホールディングス 統合報告書2024

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