
トップメッセージ
- 代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO) - 澤井 光郎
社会とともに持続的に成長し続ける
ヘルスケア企業グループとして、
医薬品の安定供給と健康への貢献という
使命と責任を果たし続けていきます
信頼回復と社会的責任
継続的な信頼回復への取り組みと、安定供給の責任を果たすことをお約束します
2023年4月に、サワイグループ主要子会社である沢井製薬において、テプレノンカプセルの不適切試験という重大な問題が発覚しました。当社グループはそれ以降、失われた信頼を回復させ、信頼される企業基盤を確立することを最も重要な経営課題として取り組んできました。
2023年12月22日の行政処分以降、「積極的な営業は控えるべき」という社内外、特に医療関係の皆さまの声を真摯に受け止め、2024年度上期は再発防止策の詳細や進捗状況を丁寧にご説明する活動に徹しました。また、2024年度に立ち上げた「企業風土改革プロジェクト」では、木村元彦社長と責任役員が先頭に立ち、トップ主導で信頼回復の取り組みを進めてきました。再発防止に向けて、経営陣と従業員が直接対話を重ねるタウンホールミーティングも定期的に実施しております。さらに、一般事務職等の従業員にもGMPや薬機法の教育を徹底し、全社で問題の原因を共有するとともに、行政処分を受けた12月22日を「全社コンプライアンスの日」と定め、再発防止に取り組んできました。このようなトップ主導の信頼回復への取り組みは、今後も決して途切れることなく継続してまいります。
信頼回復への取り組みと並行して、ジェネリック医薬品の安定供給も当社グループの重要な責務と捉え、供給不足の解消に向けた取り組みを全社で進めています。製品在庫を増やすと同時に、当期を「さらなる成長への基盤を築くための準備期間」と位置づけ、安定供給体制の再構築に取り組みました。その結果、2023年6月時点では沢井製薬で302品目、グループ全体で328品目あった限定出荷及び出荷停止品目数は、2025年3月末には、それぞれ112品目、117品目まで改善しました。
最も大切なことは、患者さんに確実にお薬をお届けすることです。その前提となる信頼回復は、私たち自身ではなく、社会や取引先、患者さんに実感していただくものでなければなりません。足りなかったお薬が届くようになり、ありがたいことに、2024年度下期から医療機関や患者さんから感謝のお言葉を頂戴する機会も増えてまいりました。特に、インフルエンザの感染拡大により全国的に医薬品が不足した際には、九州工場の従業員が年末年始の休日返上で増産に取り組み、その後も増産体制を維持しながら、2025年3月までに追加で約85万人分を出荷するように努めました。こうした現場の努力と迅速な対応が医療機関の信頼回復につながったものと考えています。一方で、感謝の声とともに、「決して気を緩めないように」とのご助言もいただいており、今後も緊張感を持って取り組んでまいります。
さらなる安定供給に向けて、生産部門の人員体制強化にも継続的に取り組んでいます。第二九州工場の新固形剤棟やトラストファーマテックでの生産量の増加などによって、ジェネリック医薬品の供給不足の解消に貢献できる見込みです。さらに、2025年6月には、卸売業者の皆さまとの情報交換会を開催しました。このような機会を通じて、安定供給に向けた取り組みをしっかりお伝えしていくことは、信頼回復への大きな一歩になるものと認識しています。
ジェネリック医薬品を取り巻く環境変化と当社グループの方針
企業再編・淘汰につながる制度改革のなかで、
継続的な安定供給に向け、リーダーシップを発揮してまいります
ジェネリック医薬品事業と切り離せない薬価制度ですが、近年の原材料費や労務費の上昇を考慮すると、2021年度から始まった「毎年の薬価改定」は現状にそぐわないものであり、廃止すべきだと考えております。この点については、新薬メーカーも含めた業界全体で一致しています。
一方、2025年4月の薬価改定において、品目ごとの性格に応じて改定対象範囲が設定されたことは、一定の評価に値すると考えています。この制度は、医療用医薬品を5つのカテゴリ※1に分類し、業界全体の実際の販売価格と薬価との平均乖離率※2(5.2%)を基準に改定対象を選定する仕組みです。ジェネリック医薬品については、平均乖離率の1.0倍(5.2%)を超えるものだけが対象となり、結果として、今回の薬価改定ではジェネリック医薬品の改定対象品目が減少しました。この改定ルールは、「持続的供給のための適正な取引価格水準」を望む沢井製薬の販売方針と一致しており、業界全体及び当社グループの双方にとって好ましいものであると認識しています。
また、2024年10月には「選定療養制度」※3が導入され、その影響を注視しているところです。さらに、2025年4月からは、ジェネリック医薬品に携わる企業の評価制度がスタートしました。これは、安定供給の実績などに応じて、すべてのジェネリック医薬品企業についてA~Cのランク評価を行うもので、評価結果は2026年4月に医療機関向けに公開される予定です。これによって、上位20%のAランク企業の製品が医療機関に選択されやすくなり、業界内で企業の淘汰が進むことは避けられません。A評価を得るためには、安定供給やそのための体制整備への投資が必要ですが、強固な財務基盤を有する当社グループは、これらの条件を十分に満たしています。仮に、淘汰の結果として他社が供給を中止した場合、その不足分を、第二九州工場及びトラストファーマテックの生産能力で補うことが可能です。当社グループにとっては、社会的責任を果たしながら成長する機会であると言えます。
当然ながら、単に競争のなかで生き残ることだけが当社グループの目的ではありません。こういった環境変化のなかでも、医薬品の安定供給の責任をしっかりと担うことが使命であり、それが結果として競争優位性につながっていくと考えています。今後も医薬品の供給不安解消に向け、業界におけるリーダーシップを発揮してまいります。
- ※1「新薬創出等加算対象品目」「新薬創出等加算非対象の新薬」「長期収載品」「後発医薬品」「その他医薬品」に分け、平均乖離率5.2%に対して、それぞれ1.0倍超、0.75倍超、0.5倍超、1.0倍超、1.0倍超の医薬品が改定対象とされました。
参考URL 厚生労働省「令和7年度薬価改定について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00063.html - ※2公定価格(薬価)と実際の市場取引価格との間に生じている差(乖離)の平均的な割合
- ※3ジェネリック医薬品がある薬で、患者さんが先発医薬品の処方を希望する場合は、先発医薬品と後発医薬品の価格差の1/4相当を患者さんが負担する制度
- 事業環境の見通し ジェネリック医薬品業界を取り巻く環境
中期経営計画の進捗
資本効率の改善に全社一丸となって取り組むとともに、
デジタル・医療機器事業への成長投資を継続しています
2024年度にスタートした中期経営計画「Beyond 2027」では、経営基盤強化の重点テーマのひとつに、資本効率改善を掲げ、重要指標であるROE及びROICの向上に取り組んでいます。取締役会においては、社外取締役を中心に、単に数値目標の達成にとどまらず、「必要な投資をためらわない」「社会への貢献を通じた利益追求が重要である」という意見をいただいています。
こうした意見も踏まえ、当社グループは、投資すべきものには積極的に投資し、その投資をいかに効率よく回収するかを重視しています。これらの目標は、経営層だけで達成するものではありません。各部門に自らの役割を意識し、目標達成に向けて何に取り組むべきかを理解してもらうため、社員一人ひとりが意識できる指標を導入し、全社一丸となって資本効率の改善に取り組んでいます。
2024年度は、330億円規模、約1600万株の自己株取得を実施し、1株当たりの配当増を実現しました。今後も、フリーキャッシュフローの確保状況に応じて、増配や機動的な自己株取得の継続を視野に入れております。そして、その前提として、成長に向けた投資が不可欠です。2026年度には第二九州工場及びトラストファーマテックで合計65億錠の生産能力を実現しますが、2030年までには需要に供給が追いつかなくなる見込みです。長期ビジョンの目標である250億錠体制に向けた生産設備への投資を継続し、中長期的な事業成長と資本収益性の向上を目指します。
さらに、デジタル・医療機器といった新規事業への投資も継続し、収益構造の強化を図っています。当社グループの主力であるジェネリック医薬品事業が薬価改定の影響を受けるのに対し、デジタル分野は薬価改定に縛られず、売上を積み上げていけるビジネスです。また、現時点で突出した競合が存在せず、大きな事業機会があると考えています。
開発を進めてきた慢性期疾患向けのデジタル医療機器(片頭痛の急性期治療、減酒治療補助)は、医療関係の皆さまから高い期待をいただいており、2025年度中に販売開始を予定しています。さらに、2025年6月には、デジタル技術を用いてヘルスケア分野の課題解決に貢献するFrontAct株式会社を買収しました。当社グループのデジタルヘルスケア事業に同社を加えることで、デジタル領域との機能融合とブランド構築を目指してまいります。
サステナビリティへの取り組み
安定供給に欠かせない人財の育成と働きがいの創出、
気候変動対応に注力しています
当社グループが医薬品の供給責任を果たし、信頼回復を実現していくためには、「人財」の確保と育成が欠かせません。「品質の安定は人から始まる」との認識のもと、人財採用における知見を深め、多様な採用チャネルを確立し、2024年度には生産部門において大幅な増員を実現しました。
また、人財定着のための施策として、育成と働きがいの創出にも注力しています。教育体制の整備にも継続して取り組み、現在は指導者の指導力強化や教育内容の標準化、教育担当者の資格化による教育水準の向上に取り組んでいます。また、従業員エンゲージメントを高めることが、高品質の製品づくりや工場の離職率低下につながると考え、外部の専門会社の支援を受けて従業員エンゲージメント調査を実施し、エンゲージメント指標に基づいて働きやすい環境づくりに取り組んでいます。これらの取り組みによって、安定した生産体制を支える強固な人財基盤を構築していきます。
さらに、社会とともに持続的に発展するヘルスケア企業グループとして、気候変動への対応も重要な課題と認識しています。増産に伴い、CO₂排出量の増加は避けられませんが、クリーン電力の導入などによってネットゼロの実現を目指しています。また、設備投資の際には環境への影響を考慮し、順次CO₂排出量が少ない設備の導入・更新を進めています。今後も事業活動を通じてあらゆるCO₂排出量の削減に努めてまいります。
人的資本の充実や気候変動対応といったサステナビリティへの取り組みは、中期経営計画における経営基盤の重点テーマでもあり、今後も経営課題としてしっかりと取り組んでまいります。
ガバナンス
監査等委員会設置会社に移行し、社外取締役3名を新たに選任しました
当社はコーポレート・ガバナンス強化の一環として、2025年6月に、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。この体制変更は、取締役会の議論活性化やモニタリング機能の強化、さらには経営の意思決定の迅速化と透明性向上を目的としています。これに伴い、新たに3名の社外取締役を選任し、医療・薬学・企業実務・財務会計など、多様な視点を取り入れた経営体制を構築しました。いずれも高い専門性を有する方々であり、結果として女性3名が選任されました。
- 監査等委員会設置会社への移行
社外取締役の選任にあたっては、グローバルに大きくモダリティー(技術領域)が変化している医療や薬学に対する深い見識とヘルスケア分野への理解、企業実務の経験、そして財務会計スキルを重視しました。これら3つの視点をもとに、指名・報酬等ガバナンス委員会からの提言を受けて、取締役会で候補者を決定し、株主総会において選任されました。
相徳泰子氏は、海外製薬企業の執行役員としてのご経験を持ち、医薬品事業の企業経営及び医学・薬学における豊富な専門知識と実績を有しています。また、海外企業で不祥事再発防止のリーダーも務められ、マーケティングのプロフェッショナルとして、グローバルなモダリティーの変化にも精通されています。谷口悦子氏は、会計・税務の専門家としての豊富な経験と知識を有しており、当社の経営判断や業務執行に対して、客観的かつ独立した立場から有用な助言や監査をいただけると評価しております。Nose Yukiyo氏は、ESG分野での経験を有し、グローバルな視点での有用な助言や監査が期待できます。医学にも精通され、WHO(世界保健機関)等の国連関連機関でのご経験、さらには企業経営コンサルタントとしての実績や会計・税務の知見も有する方です。新任社外取締役の方々には、当社の戦略や方針、制度などへの理解を深めていただくための説明会を実施しました。
このように、業界に精通した3名の新任社外取締役に加え、以前から社外取締役を務めている三津家正之氏の製薬企業の経営経験と小原正敏氏のコンプライアンスの視点と合わせ、より多様で強固なガバナンス体制を実現しております。
ステークホルダーへのメッセージ
中期経営計画を確実に達成するとともに、
長期的な成長に向けて不断の挑戦を続けます
2024年度に策定した中期経営計画「Beyond 2027」は、私たちが目指す未来の姿と、その実現に至る具体的な道筋をステークホルダーの皆さまにお示しし、その達成を固くお約束するものです。
この約束を果たすため、従業員一人ひとりが自らの役割を「自分ごと」として捉え、主体的に業務を遂行する組織風土の醸成に努めています。本計画に掲げる戦略は、私たちが長期にわたり業界のリーディングカンパニーであり続けるために不可欠なものです。
グループ企業理念である「なによりも健やかな暮らしのために」を具現化すべく、私たちはこれからも不断の挑戦を続けてまいります。
- 代表取締役会長兼社長
(グループCEO兼グループCOO) 